
破綻後の不貞行為
不貞行為は法律上の離婚原因となり,慰謝料なども発生することは,一般に良く知られていると思います。
さて,夫婦関係がすでに破綻した後に配偶者以外の者と肉体関係を持った場合に,不貞行為となるのでしょうか。
この点,形式的には夫婦関係が続いているような場合であっても,すでに別居して長期間経っているような場合には,実質的に夫婦関係が破綻しているといえるので,仮に愛人を作ったとしても,不貞行為にはならないとされています。
最高裁昭和45年5月21日判決では,夫が婚姻関係の破綻後に妻以外の女性と同棲している場合に,夫から妻に対する離婚請求が許されるかが争われた事件で,次のように述べています。
「被上告人は、上告人●との間の婚姻関係が完全に破綻した後において、訴外△と同棲し、夫婦同様の生活を送り、その間に一児をもうけたというのである。右事実関係のもとにおいては、その同棲は、被上告人と右上告人との間の婚姻関係を破綻させる原因となつたものではないから、これをもつて本訴離婚請求を排斥すべき理由とすることはできない。」
破綻後の不貞行為は,夫婦の婚姻関係を破綻させた理由にはならないから,離婚原因にも,慰謝料請求の理由にもならない,ということですね。
ちなみに,最高裁平成8年3月26日判決は,婚姻関係が既に破綻している夫婦の一方と肉体関係を持った第三者の他方配偶者に対する不法行為責任の有無が争われた事件で,次のように述べています。
「甲の配偶者乙と第三者丙が肉体関係を持った場合において、甲と乙との婚姻関係がその当時既に破綻していたときは、特段の事情のない限り、丙は、甲に対して不法行為責任を負わないものと解するのが相当である。けだし、丙が乙と肉体関係を持つことが甲に対する不法行為となる(後記判例参照)のは、それが甲の婚姻共同生活の平和の維持という権利又は法的保護に値する利益を侵害する行為ということができるからであって、甲と乙との婚姻関係が既に破綻していた場合には、原則として、甲にこのような権利又は法的保護に値する利益があるとはいえないからである。」
離婚相談弁護士横浜 細江智洋